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対談:『堀場製作所代表取締役会長 堀場厚 X 村山祥栄』

対談:『堀場製作所代表取締役会長 堀場厚 X 村山祥栄』

村山祥栄
本日はありがとうございます。京都党はお父様である堀場雅夫最高顧問がお作りになったと言っても過言ではなく、結党から今日の京都党の礎を築くまで本当に絶大なるご理解とご協力を賜りました。当時はなかなか堀場会長とのご縁がなかったのですが、最高顧問がご逝去されて以来、京都党応援団の顧問をお引き受け頂き、今日に至っています。
堀場厚
うちは代々京都出身で、京都という街に強いこだわりを持っています。「京都イズム」と言いますか、京都を第一に考えている京都党については引き続き頑張って頂きたい。
そのような意味で、父が生前応援していた様々な取組みの中で引き継いだもの・引き継がなかったもの色々ありますが、京都党については微力ながらお手伝いさせて頂いています。お役に立っているかわかりませんが(笑)
村山祥栄
いえいえ、世界を牽引し、まさに現在の京都を代表する企業のトップにそう言って頂いて大変心強い思いです。さて、そんな京都の企業のリーダーに色々とお話を伺いたいと思います。すでに御社は京都企業というよりグローバル企業という方が正しいかもしれませんが。
堀場厚
HORIBAの社員7600人のうち6割は外国人です。日本人は3割そこそこで、社員の大半は京都におりませんが、京都企業という自負は強いですね。京都発の社是、社風、経営方針のもと、世界中の『ホリバリアン(※HORIBAの社員)』が責任を持って仕事をしてくれています。うちの社是「おもしろおかしく」は、英語で訳すと「JOY&FUN」。分かりやすいでしょ。シンプル・イズ・ベストです。この「JOY&FUN」の精神でみんな働いています。
村山祥栄
なるほど。そうした発想の中で生み出される製品が世界を席巻しているわけですね。

対談:『堀場製作所代表取締役会長 堀場厚 X 村山祥栄』

堀場厚
そうです。HORIBAは分析機器メーカーで、エンジン排ガス測定器では世界シェア約8割を占めます。自動車産業というのはナショナリズムが強く、ドイツはドイツの製品、アメリカはアメリカの製品を使う傾向にあるのですが、HORIBAは世界中の自動車メーカーで高いシェアを持っています。HORIBAの製品供給が止まれば、世界中の生産ラインや研究開発が止まる。自分たちがいないと立ち行かなくなる。これが我々のプライドなのです。
村山祥栄
高付加価値・高品質な製品を適正な価格で提供する、京都の典型的なモデル企業ですね。
堀場厚
また、当社の製品は競合他社に比べると、決して値段は安くありません。しかし、常に研究開発に投資をし続け、常にお客様から求められる商品を提案し、高品質な製品を安定して提供し続けるという強みがあります。
村山祥栄
価格競争に参入しない、独自の高価格・高付加価値路線を貫くのは昔からの京都の伝統ですね。しかし、京都の企業のすごいところは、それだけのグローバル企業のほとんどが創業家企業だということですね。
堀場厚
それはよく指摘をされますね。ダメな2代目、3代目が企業を食いつぶすという例はあるのでしょうが、創業家企業というのはそれなりにメリットも多いと思います。特に、海外では創業家だと信頼してもらいやすく、話が早く進みます。海外では人材が流動的なため、特にそうなのだと思いますが、創業家は船が沈むまで残る船長だと思ってもらえるのでしょう。
村山祥栄
要は最後まで逃げ出さない奴だと。オーナーシップですね。
堀場厚
もう一つ。創業家は逃げ出さないだけでなく、更に次の時代を見ています。林業だと、孫の時代の為に植林をします。自分や息子の代では恩恵が出ないが、その先を見据えて木を植える。創業家とはそういうものです。次代、次々代の為に、未来志向で思い切った投資が出来る。短い周期で社長が変わると、目の前のことだけに注力せざるを得ないということがあると思います。
村山祥栄
確かに、サラリーマン社長は在任中に利益を出す、株価を上げることこそが評価につながりますし、立場を維持する為に求められることですね。

対談:『堀場製作所代表取締役会長 堀場厚 X 村山祥栄』

堀場厚
そうですね。政治も同じじゃないですか。ポピュリズムに走って、票を取る為だけに政治をやったら絶対にダメになる。社長が社長の座を維持する為に「給与上げます」「休みあげます」と何の裏付けもなく、社員に迎合したらどうなるでしょうか。会社は潰れかねません。
私は迎合せず、社員には丁寧に説明をし、信念を通すようにしています。本当に街の為に、未来の為に考えられるか。まさに『オーナーシップ』を持って政治が出来るかが大切なのだと思います。
村山祥栄
今の政治に対する警鐘ですね。ご指摘の通りだと思います。国も京都市も、とにかく目の前の国民市民への恩恵を優先する余り、次世代へのしわ寄せが年々顕著になっています。にもかかわらず負担の先送りを止めないのは、現国民こそが投票権を持っているからに他ならないのだと思います。
堀場厚
企業でも企業の将来に責任を負うわけで、国や自治体なら尚更しっかり責任を持って取り組んでもらわねばなりません。だから、京都の政治家なら京都に対してしっかりとしたオーナーシップを持って政治を行って頂きたいと思います。
HORIBAも業績のことだけを考えたら、アメリカや中国に本社を移した方がいいのです。でも移さない。なぜなら京都に対してオーナーシップを持っているからです。企業ですらそのような思いで京都と向き合っています。政治家なら尚更でしょう。
村山祥栄
政治家は街や国に対してオーナーシップをどれだけ持てるか。逆に、オーナーシップを持っている人間がどれだけ街の舵取りに参画していけるかが重要なのですね。
堀場厚
但し、その為には、財務的に強くなければ健全な成長は望めません。例えば新入社員ですが、一人前になるには正直5年は掛かります。それまで企業側の持ち出しで給料を払って教育するわけです。このようなことも財政的裏付けがないとできません。強い財務体質とオーナーシップ、このふたつが大切だと思いますね。
村山祥栄
仰る通りですね。折角なので、もう少し政治に対して注文があれば仰って下さい。
堀場厚
教育の課題は深刻です。今、日本のテレビ番組で一番人気があるのはクイズ番組だと思いますが、あれほど有能かどうかを判断する上で無意味な番組はありません。記憶力だけで優秀かどうかを判断するわけでしょう。
それで賢い、賢くないという。大事なことはジグゾーパズルを早く完成させることじゃなくて、レゴ(プラスチック製の組み立てブロック)で創意工夫をして新しいものを作り出すことです。
記憶力重視の教育でユニークな製品や考えが出てくるわけがない。実際、最近は弊社でも京都本社よりも海外拠点の方がユニークな製品が生まれます。記憶力重視から思考力重視、議論する風潮をこの日本で育てていかないと本当にダメになると思いますね。
村山祥栄
様々な課題が企業経営からも見えてきますね。御社は6期連続最高益と業績は右肩上がり、堀場会長は四半世紀にわたって社長としてこの成長を導いてこられました。経営する上でどういったことを気にかけてお仕事されていますか?
堀場厚
昨年の過去最高の売上、過去最高の株価を達成したとき、皮肉なことに私は骨折をして入院中でした。だから、社長がいないほうが利益は上がる。(笑) 
村山祥栄
いえいえ、そうじゃなくて(笑)
堀場厚
最近よく言うのですが、潮目が変わりつつあります。自動車産業は日本の基幹産業ですが、この技術は5年から10年サイクルで進化してきています。それが、シリコンバレーを拠点にしている電気自動車メーカー「テスラ社」が出てきて一変しました。彼らはたった一年で尋常ではない性能アップ、運動性能のアップを達成しています。
短期間で驚くべき革新を遂げているのです。他の自動車メーカーのトップはあのテスラを見て、完全に潮目が変わったと感じています。3年前、弊社は車両開発・車両試験設備の提供を行うMIRA社(イギリス)を買収しました。この会社には素晴らしい技術者がたくさんいたからです。結果、図らずも自動運転やバッテリーマネジメントの技術が手に入りました。
その時々に応じてベストな判断を繰り返していくことが大切です。特に資金力があるところはどこに投資すればいいか考え続けなければなりません。
考え続けることが必要です。思考を停止していたら取り残されてしまう。今変われない者はずっと変われない。何事も5年したら陳腐化します。だから常に変わり続けないといけない。その繰り返しです。
村山祥栄
ダーウィンの進化論ですね。生き残れるのは変化できる者だと。そのために考え続けることですね。その結果が今日を築いていくわけですね。
堀場厚
そうですね。あとは地道に向上することが大切だと思います。企業でいうと、売上額が大きいことがいいことではない。少しずつでも利益が増えることがいいわけです。売上だけを求めれば企業は、一挙に失速する。少しずつでも加速し続けていること。
そして、「どこで」「どう」加速するかが重要だと思いますね。人間も一緒だと思いますが、一気に加速しようとすると難しい。そこは京都党も一緒かもしれませんね。そしてどこかで加速のときがやってくるのではないでしょうか。
村山祥栄
ありがとうございます。堀場最高顧問も生前、よく「君は若いから、一気に行こうと思うんやろうけど、一気に行ってもあとでぽしゃっとなったら仕舞いや。せやから、焦らず確実に前に進めばええ。何でも一人前になるには10年ぐらいは掛かる。」と仰っていました。
堀場厚
政治は大変だと思います。昔、京都経済同友会の代表幹事をしていた時、塩爺(故・塩川正十郎・衆議院議員)に「あなたが日本を良くしたいと尽力しているのはわかる。でも民間人にできることには限界がある。あなたの世の為、人の為と思う気持ちがほんまもんなら、いい政治家を育てることやで」と言われました。是非頑張って下さい。
村山祥栄
ご激励有難うございます。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

対談:『堀場製作所代表取締役会長 堀場厚 X 村山祥栄』

(平成30年2月20日 聞き手 村山祥栄)