対談:『御香宮神社 権禰宜 三木善明 X 村山祥栄』

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検証「陛下の祭祀に奉仕して28年、京都で即位礼は可能なのか?」

村山祥栄
本日はありがとうございます。現在、御香宮神社で権禰宜をお勤めされている三木さんですが、簡単にご経歴を教えていただけますか。
三木善明
元々、ここが私の実家でして、今は戻ってきて神職をしておりますが、以前は、宮内庁京都事務所から始まって、宮内庁掌典職で出仕と掌典補として28年ご奉仕し、その後正倉院事務所と異動し、桃山陵墓監区事務所で定年になりました。その後、再任用で京都事務所、そして今に至ります。
村山祥栄
掌典補というのは、掌典職の一員ですね?
三木善明
そうです。掌典長、掌典次長、掌典、掌典補、出仕という序列で、掌典補という立場だけが公務員です。掌典以上は基本的に旧公家、武家、大学教授、あるいは宮内庁・皇宮警察の課長級以上がなることになっています。
村山祥栄
28年の間にはいろいろあったんですよね。特に、今上陛下の御大礼を現場で取り仕切ってこられたと聞いています。
三木善明
随分貴重な体験を沢山させて頂きました。
村山祥栄
早速ですが、平成の大礼の時の話を伺いたいと思いますが、あの時、宮内庁では大礼委員会が組織されて具体的に検討をされていましたよね。その中では、大礼は京都で実施すべきという強い意見もあったと伺っておりますが。
三木善明
そうですね。京都でやるべき論は確かに祭祀に携わる掌典職を中心にあったことは事実です。ただ、メンバーは政治家をはじめ色々な方がおりましたし、特に決定については実質指揮を執る宮内庁の官僚の声が強かったと記憶しております。
村山祥栄
なぜ京都で行うべきと主張されたのでしょうか?
三木善明
それは、元々そうだからです。旧皇室典範は戦後廃止されましたが、それには即位礼・大嘗祭は京都でやるとわざわざ場所が明記されている。これは、明治天皇がお決めになったことです。陛下ががお留守になってから、京都が荒廃する姿を見て大層お嘆きになり、京都御所を保全され、ご自身の御陵を桃山にお決めになった。それと同じで、京都で即位礼をすることも明治天皇の思し召しだからです。
村山祥栄
明治天皇の意思は尊重すべきだと。なぜ明治天皇なのですか?
三木善明
明治天皇はとりわけ近代日本の元をおつくりになったということもありますが、こんな言葉があります。「綸言(りんげん)汗のごとし」一度体から出た汗は戻らないという意味です。特に尊い方が仰ったことはそうそう崩せないということです。陛下からすれば曽祖父である明治天皇がお決めになったことをそんな簡単に覆していいのかということです。
村山祥栄
ということは、基本的に過去の陛下がお決めになったことは覆すべきではないと?
三木善明
それが基本です。その証拠に陵墓の調査は宮内庁は絶対認めません。
村山祥栄
どういうことですか?
三木善明
以前から学者の間では、現在の天皇陵は本物か疑わしいものが数多くあると指摘をされてきました。それは古いものもありますから、考古学的に本当にそこに眠っていらっしゃるかわからないと主張する者もいます。しかし、宮内庁は再調査を絶対に認めません。なぜなら、現在認定されている陵墓はすべて、御祖先たる天皇が御治定されたものだからです。「綸言汗のごとし」だからです。
村山祥栄
御祖先の天皇のお気持ちを尊重すべきだと。
三木善明
その通りです。
村山祥栄

しかし、その主張は退けられ、東京に決まりました。なぜですか?

三木善明
理由は大きく三つです。
一つ目は警察。今の行幸啓でも警察が「警備に責任を持てない」といった時点で行幸啓はできません。つまり、当時の京都では警備に問題があったということです。
二つ目は、宿泊施設の確保です。皇族全てを同じ宿泊施設にお留めすることはリスクの観点からできません。分散しお泊り頂く。国賓は沢山お越しになる。京都で確保するには大きな問題があった。
三つめは移動をはじめとしたコストの問題です。皇族全てを京都に来ていただくだけでも大変なコストが発生する。コストは東京の方が安くつきます。
村山祥栄
当時はそれでも京都でやるべきだと仰っていたわけですね。
三木善明
これはオリンピックやサミットといったイベントとは違うわけです。国家最大の儀式であり、祭祀なのです。正直、京都というハードルは高い。でも、我々の立場からするとやるべき論なのです。コストの問題で言えば、大礼も一着200万円近く掛かる装束、十二単でやるよりもモーニングでやった方が遥かに安くつきます。でも、そうはしません。大礼などもモーニングですべきとの声もありましたが、束帯、十二単と皇室令に則ってやっています。これも御祖先である明治天皇の思いから続くものです。 基本的に近代日本の元になった明治の精神に戻すこと、これが大切なのだと思います。
村山祥栄
なるほど。この20年で、状況は一変しました。特に警察の警備体制は飛躍的に上がりましたし、京都の宿泊施設の数も急増しました。コストの問題は残りますが。しかし、先の大礼の時の課題は随分クリアになっています。ただ、次に場所が確保できるのか。具体的に京都のどこで、どんな形で行うのかという問題が浮上しますが。
三木善明
京都で行うことを考えれば、即位礼は紫宸殿で、大嘗祭は仙洞御所の中に大嘗宮を造営し、そこで行えばいい。
村山祥栄
仙洞御所で行うには、木を切らねばなりませんが。
三木善明
木は切ればいい。終わればすぐ植えればいいんです。儀式とはそういうものです。ただ、政府がその批判に耐えれますかということが問題です。あとは、饗宴場を確保できるかです。外交団が多いので、受け入れどうするかといった問題ですが、それは行い方次第なのではないでしょうか。
村山祥栄
昭和の時とは違い、参列者が多いので大変だという声も聞きますが。
三木善明
即位礼は紫宸殿で、参列者の数を絞って行います。回廊に入れる数で行えばいいのです。そして、大嘗祭はもうあまり人は呼ばなくてもいいと思います。
村山祥栄
参列させないということですか?
三木善明
そうです。大嘗祭というのは陛下と神々との対話なんですから、静かに荘厳でないといけない。昭和天皇のときは、即位礼と大嘗祭の間の2週間、京都市内は花電車を走らせ、飲めや歌えの町を挙げてのどんちゃん騒ぎでした。そんな中で大嘗祭をされました。そんなところで大嘗祭をしていいのかということです。高松宮殿下は祭祀に非常に精通された方でしたが、大嘗宮など作らず、普段の神嘉殿(新嘗祭など行う神殿)で粛々と行えばいいと仰っていました。多分、昭和3年の大礼をしっかり覚えてらっしゃったのでしょうね。
村山祥栄
では、大嘗宮は最小限で粛々と行えばいいと。
三木善明
そうですね。
村山祥栄
しかし、平成の時もかなり大きくしていますね。
三木善明
そうですね。前例主義ですから。それでいて、小さくしないと国民の理解は得られないと少し小ぶりにしました。
村山祥栄
前例主義と世論を気にするあたりは普通の役所ですね。
三木善明
小さくすることはいくらでも可能です。東山天皇のときが最も小さかったのではないでしょうか。問題は大小ではなく、どういう意味を持った祭祀なのかということだと思います。
村山祥栄
本当にそうですね。さて、京都は双京構想を掲げ、京都の果たせる役割を考えています。既に廃止してしまった宮中行事なども京都で復活させられないかと考えています。
三木善明
そうですね。できるものはあるかもしれませんね。宮中行事の多くは公には廃止されたとなっていますが、一部、七夕などは陛下ご自身で粛々とされているはずです。そういうものや現在も行われている歌会始などは京都で行うことは可能かもしれません。
村山祥栄
なるほど。三木さんは京都事務所にも長くお勤めされておられましたが、御所の中には皇室縁の品が沢山眠っていると聞きます。こういうものは表に出せないものでしょうか。
そ:そうですね。例えば御帳台(みちょうだい・天蓋付きの座所)などをはじめ多くの品々が存在します。書物なら平安時代のものからあります。展示しようと思えば出来ますが、場所がありません。
そういうものを国民の皆様に広くご覧いただける施設などが京都にあってもいいと思うのですが。事実、ほとんどのものは平安京で使われてきたものですから。
三木善明
場所があれば可能かもしれませんね。
村山祥栄
我々は市民の声を集めて、上皇の京都ご帰還歓迎の意の署名をしました。上皇の御心に沿ってですが、もしその思いをお持ちいただけるなら是非お帰りいただきたいと。そして、京都市も皇室の京都滞在を願っています。
三木善明
私はこちらに常駐されるのは難しいと思っています。ご高齢で慣れない環境に身を置かれるのは決していいとは思いません。ただ、頻繁に滞在されることは十分考えれることかもしれません。
村山祥栄
そこでですが、具体的に京都滞在される場合はどちらにお住まい頂くのが現実的でしょうか。御用邸を作るべきとか京都大宮御所にお住まいになるのがいいとか色々なご意見がございますが。
三木善明
皇室も財政難ですから、御用邸の新設は難しいと思います。孝明天皇の皇后様が明治時代までお住まいになった京都大宮御所ですが、こちらも難しいと言えるでしょう。耐震改修は終わりましたが、床も天井も高く、決して住みやすい建物ではありません。
村山祥栄
では、どうすべきでしょうか。
三木善明
一番いいのは迎賓館ではないでしょうか。以前、京都大宮御所の改修時期に陛下が京都にお越しになった際は迎賓館にお泊りになったと記憶していますが、あそこが最も設備的にも警備的にも優れていると思います。ほとんど使われていませんから、是非あるものを活用すべきだと私は思います。
村山祥栄
迎賓館は盲点でした。確かにいい案かもしれませんね。本日はお忙しいところありがとうございました。
三木善明
ありがとうございました。

(平成29年6月28日 伏見・御香宮神社にて)

有識者から署名にあたっての「メッセージ」